小学生の頃、家の近くの畑のそばを通ったときのこと。
いつも通る道なのに、その日はふと足が止まりました。
畑の中から、「ピヨッ、ピヨッ」と小さな鳴き声が聞こえてきたのです。
誰かが呼んでいるような、かすかで、でもはっきりとした声。
畑の中にいた、小さな命
耳を澄ませてじっと立ち止まると、
草の間から、モコモコした何かがちょこっと動きました。
よく見ると、それはムクムクとした、赤ちゃんスズメ。
まだ羽もふわふわしていて、親鳥に比べるとずっと小さくて、なんともいえないくらい可愛らしい姿でした。
こちらの気配に気づいているのかいないのか、ピヨッピヨッと鳴きながら、ちょっとだけ出てきて、また草の陰に隠れて。
その様子を、私はただ夢中で見つめていました。
季節は思い出せないけれど
その日の気温も、空の色も、季節さえももう思い出せないけれど、
「ピヨッピヨッ」という小さな鳴き声と、その子の姿だけは、なぜか今も心に残っています。
あれはきっと、ほんの一瞬だけすれ違った、小さな命との出会い。
人間よりずっと小さな存在なのに、あの子がいたことで、その畑の風景ごと記憶に刻まれているのが不思議です。
今でも、ふとよみがえる音の記憶
今、自然の音や環境音をテーマにBGMを作るようになってから、
あの日のスズメの鳴き声のような、一瞬で心に残る音の存在を、あらためて感じるようになりました。
派手ではないけれど、静かな中でふいに響く小さな声。
それが誰かの記憶をそっと呼び起こすこともあるのかもしれません。
おわりに
ピヨッピヨッと鳴く、ムクムクの赤ちゃんスズメ。
ただ通り過ぎるはずだった畑のそばで、その子に出会えたことは、今でもちょっとした宝物のような思い出です。
何気ない記憶の中に、こうして音と風景が重なって残っているのは、
きっと、その瞬間に何かが心に触れたからなんだと思います。
そんな音と出会えますように。
ーseasundiary🌙